屋内を自由自在に飛び回るドローン。よく見るドローンとは何かが違うと本能的にわかる。
操縦するパイロットはゴーグルを頭に取り付け、手元にはゴツゴツとしたコントローラー。
飛行するドローンは虫のようにふわふわ飛んだと思ったら、鳥のように駆け抜けていく。
これらのドローンは「FPVドローン」や「マイクロドローン」と言われることが多い。
目次
FPVドローンとはなにか?

FPVとは “First Person View” の略で、「一人称視点」を意味する。
現在、一般的なドローンは、中国のDJI社をはじめとする完成品が主流だ。
これらの多くは、地上からドローンを目で客観的に捉え、機体の位置や向き、
そしてモニターの映像を確認しながら操縦する。
いわゆる「LOS(Line Of Sight)飛行」と呼ばれる操作方法である。
一方、FPVドローンの飛行方法は仕組みから異なる。
ドローンに搭載されたカメラの映像をリアルタイムで無線伝送し、
パイロットはゴーグル型のディスプレイを通してその映像を見る。
つまり、飛んでいるドローン本体の動きを見ることはない。
まるで自分自身が空を飛んでいるかのように、直感的な移動感覚で操縦することができるのだ。
マイクロドローン映像の登場
以下の私が撮影した映像を見ていただいた著名建築家に「この映像は、まさに、神の視点だ」と言われた。
マイクロドローンのFPV映像には、小さな虫のような軽快さと鳥のような自由さがある。
低空から地面ギリギリをすり抜けるような移動、花々の隙間をすり抜ける繊細な動き、
弧を描きながら優雅に旋回するなど、空間の中を立体的かつシーケンシャルに移動することができる。
その動きは微細な揺らぎを伴い、どこか自然で有機的な印象を与える。
そして、これらの動きは、自作のカスタマイズされたドローンでこそ成し得る。
パーツを組み立て、はんだ付けを行い、フライトコントローラーをチューニングし、
操縦技術を高めることで、このような空間移動を可能にするのだ。
私は、自作のマイクロドローンが生み出すFPV映像の本質的な価値は、
「画角的な視点」ではなく「連続的な移動」にあると考えている。
単なる空撮カメラではなく、「飛ぶ主体の視界そのもの」を
映像として連続的に捉えられるという点で、従来の撮影機器とは大きく異なる。
一般的な空撮の多くは、安定性や構図の美しさが重視されるだろう。
加えて三脚、ジンバル、クレーンといった地上での撮影手法は、カメラはあくまで「観察する側」にとどまる。
しかしFPVドローンは、カメラは観察者ではなく、移動する主体の一部となるのだ。
屋内は航空法規制対象外、屋外は目視外飛行の特定飛行が該当
日本でFPVドローンを飛行させる上でポイントとなるのは、「航空法」と「電波法」の2つだ。
上述のようにゴーグルを装着して映像を見ながら操縦するFPVドローンは、航空法の特定飛行「目視外飛行」に該当する。
また、映像伝送には、5.7GHz帯の無線通信を用いてリアルタイムに映像を確認する必要があるため、
電波法上の「無線局」として扱う必要がある。
近年のドローン国家資格化(正式には一等/二等無人航空機操縦士)に伴い、
「ドローン免許がないと飛ばしてはいけないのでは?」と思う一般ユーザも多いが、
自作のFPVドローン飛行においては、無人航空機操縦士の国家資格は不要であり、
一方、無線局を扱うための「陸上特殊無線技士(趣味の場合はアマチュア無線技士)」が必要となる。
また、無線系国家資格に加えて、FPV伝送を行う無線機器の開局届けが必要となるため、
単に国家資格を取得したからといって、すぐにFPVドローン飛行ができるわけではないのに注意が必要だ。
なお、航空法のドローンに関する規制は、「屋外」に範囲を限定されている。
屋内環境においては、FPVドローンの目視外飛行は、航空法の規制対象とならない。
以下は、屋内施設のみで撮影したマイクロドローン映像だ。
お台場の「海の森エリア」で行われたSusHi Tech Tokyo 2024(スシテック東京2024)で
「ロボコのドローン ファクトリー」のイベントの企画運営を行ったときに、集客PR用にフライトしたものだ。
羽田空港近くであり、都心部で撮影許可のハードルは高いエリアだが、
屋内施設に限った飛行であれば、会場さえ問題なければドローン飛行は可能だ。
マイクロドローン撮影の価格や相場感は?

これまでのDJIドローンによる空撮や地上カメラによる映像制作とは、
何かが違うのが少しご理解いただけただろうか。買ってすぐに使える機材と異なり
FPVドローンは自作する必要があるため、海外からパーツを調達し、
電子工作による制作やパソコンを用いたチューニング、
そして日々のメンテナンスが必須であり重要なポイントになる。
また、法律・コンプライアンスを遵守するために、国家資格や無線通信の運用調整が必須である。
飛行するための操縦技術も、一朝一夕で身につくものではないため、
FPVドローンが広まって10年経った今でも、操縦者の数は少なく希少性が高い状態が続く。
そのため、マイクロドローン撮影における費用・価格も、
通常の撮影に比べると、高くなる傾向にあるといえるだろう。
相場感の例として、撮影のみで人件費・機材費を含む場合、
マイクロドローン撮影はパイロットのスキルや条件に応じて、
1日15万円〜35万円ほどの範囲に落ち着くのではないかと、
弊社へのご依頼や、映像制作会社やディレクター・チーフカメラマンの話を聞いて想像できる。
当然ながら、企画から撮影・編集・販促など含む場合はその限りでない。
マイクロドローン撮影のスケジュールや現場での注意点は?
近年、「マイクロドローン」というワードを、著名な歌手やアーティスト自身が理解し、
また撮影手法として要望して、音楽LIVEやフェス、MVに使われることも増えてきたくらい、
認知が少しずつ広まってきていると感じる。
以下、通常の撮影手法と異なり、よく撮影現場で説明が必要となることだ。
(撮影・映像系)
・センサーサイズが小さく、低照度環境に弱い
・アクションカムを使用することが多く絞りが固定
・長回しが多くなり、露出調整がエリア限定的にしか行えない
・小型軽量化や低速飛行が影響し、撮影素材のスタビライズ処理を必要とする
(二重書き出し・画質劣化・歪み補正問題にもつながる)
・映像モニタリングが操縦位置近くとなるケースが多い
(環境・安全系)
・外気や送風、気圧変化(窓の開けしめでも発生)に影響を受けやすい
・ドローンの羽音による騒音が発生する(60db-100db)
・万が一、人物や建造物に当たって事故の起きないガード装着や軽量化や保険への加入
・電波の送受信が適切に行える操縦位置を選ぶ必要がある
(見通しが悪かったり、鉄骨コンクリートの環境など電波強度が下がる場合もある)
大学のように広い環境だと、どうしても場所を変えて何度も飛行する必要が出てくる。
また、演者として人物を入れる場合、タイミングをあわせる必要があるため、
一回の長回しの飛行で、意図したルートの飛行や演者との合わせが重要となる。
以下は、城西大学の3学部を撮影したうちの一つだ。CGと組み合わせることで、
ポップな印象で大学学部のファシリティや生徒や教授の雰囲気がわかりやすく表現できた。
マイクロドローンだからこそできる映像表現

FPVマイクロドローンの撮影は、多くのお客様にとって、またその視聴者にとっても初体験であり、
正しい期待値を持っていないことが多い。そのため現場での反応は「すごい」「初めて見た」と
良好なものになりやすく、一見すると十分に期待を超えているように見える。
一方、FPV映像も見慣れている目が肥えたディレクターや制作会社の評価基準は
映像自体の品質や短い時間でも決めきる撮影能力に依存する場合もあるだろう。
ただし、FPVのような特殊撮影は具体的な指示を出す側が十分な説明言語を持っていないため、
適切なディレクションが行えず、結果的に意図が汲まれない映像に消化不全を起こす場合もあるので注意が必要だ。
私が述べるFPV映像の3つの特性(連続性・立体性・動物性)を考慮すると、
既存の映像制作とそもそも組み合わせないほうが良い場合も多分にある。
嘘のない空間を感じる映像体験を提供するなら、FPVワンカット映像が最適な場合も多い。
以下は、マイクロドローン映像を中心に据えながら、連続的な流れを維持して制作された相鉄線の映像だ。
相手の要望やニーズをそのまま受け取るのではなく、
パイロットや撮影者自身がFPV映像の本質的な価値や特徴を正しく理解し、
伝えることこそが重要だと私は思う。